学費ナビ

私立文系の大学選び、偏差値より気を付けたい奨学金という名の借金

私立大学の文系学部に入学すると初年度300万円

東京地区私立大学教職員組合連合会が行った、東京・埼玉・千葉・栃木の11大学の学生4231人を対象とした調査では、入学の年にかかる費用の平均額が、300万円を超えていたことがわかりました。この数字は、私大初年度納付金の約136万円(初年度の入学料込)に受験費用を加え、更に4月から12月までの住居費(敷金・礼金等を含む)と仕送り額等を合計した金額の平均値で、大学のそばに部屋を借りて居住する学生のリアルな数字となっています。
もし、これが自宅から通学する学生だったとしても、住居費や仕送りの代わりに、生活費や交通費などがかかることを考えれば、150万円は超えるものと容易に想像できるでしょう。

東京私大教連「私立大学新入生の家計負担調査2022年度」より転載

「借金をするか否か」大学進学を考える親子の本音

子どもが現在高校生で、卒業後の進路を検討する時期が迫ると、普通の親であれば、我が子のやりたいことを優先した進学先を自由に選ばせてやりたいと考えます。
もちろん、可能であるなら、預貯金を切り崩してでも無限に学費を捻出したいところですが、我が国では30年に及ぶ経済不況によってサラリーマンの年収が頭打ちといった状況が続いていることに加え、近年のコロナ禍、世界的な物価高などが原因で、学費の捻出が困難という家庭も多いはずです。
そんな経済状況の家庭が多いことを認識しているはずの高校教師もまた、大学へ進学できるだけの学力を持つ生徒には、少々無理してでも進学せよと勧めるし、有名大学への指定校推薦入学枠があれば、親を説得してでも、進学させたいと考えるでしょう。
文部科学省の令和3年度の調査によると、私立文系学部の初年度学生納付金の平均は、授業料・入学料・施設設備費を合わせて約136万円です 注1。

注1 文部科学省「私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査結果」から引用

高校までは、授業料の実質無償化制度が充実しつつあるので、どうにか学費を安く抑えてやってきたとしても、私立大学となると、そのもともとの額面が大きいため、やはり学費の捻出が困難な家庭も多いようです。
そのため、大学へ行かせたいけれど経済的に難しいという家庭は、多かれ少なかれ「借金」を検討することになってしまいます。

給付型奨学金が創設されたとはいえ

我が国で「奨学金」と呼ばれ、広く活用されている日本学生支援機構の奨学金は、その多くが貸与型です。近年になって返済不要の「給付型」と呼ばれるものが創設されましたが、これは住民税非課税世帯等から年収約380万円まで(平成6年度からは多子世帯や理系学部などに限り年収約600万円)の世帯を対象としており、サラリーマンの平均年収といわれる400~500万円程度の世帯は、給付型奨学金も授業料の減免の対象から外れてしまいます。しかし、その収入では大学の学費を捻出するのは厳しいのが現実です。この平均年収の、貧しくもないけれど余裕も無いという家庭は、大学進学を可能にするため、「貸与型」と呼ばれる奨学金を受けて、卒業後に返済をしていくことになります。
日本学生支援機構の令和2年11月の調査によると、大学生のおよそ半数が何らかの奨学金を受けていることがわかりました。これは機構の給付型・貸与型奨学金の他、財団法人・学校・地方自治体なども含む「奨学金」と名のつくもの全てをカウントした調査なので、全てが貸与型というわけではありません。一方で金融機関の教育ローンや親戚からの借り入れなどは含まれていません。給付型奨学金がある一方で、金融機関の教育ローンや個人的な借金を含めると、やはり「半数以上の学生が何らかの借金を抱えている」と理解しておいて間違いないでしょう。

日本学生支援機構「学校区分別の奨学金受給希望・受給状況(令和2年11月)」より転載

都会の有名大学より、地元の大学のトップを目指せ

日本学生支援機構の貸与型奨学金の利息は年利1%程度ですので、金融機関のローンなどに比べればはるかに安いのですが、自宅外通学者の学費が年約300万円なら4年で1200万円ですので、月額5万円を最長20年間で返済することになります。一方、自宅通学者は学費年約150万円なら4年で600万円ですので、月額2万5千円を最長20年で返済します。
どちらも大きな数字ですが、倍の開きがあります。就職後に給料の手取りから毎月5万円、あるいは2万5000円が引かれ続けるのは暮らしに大きな影響を与えかねません。
偏差値を拠り所に東京や大阪などの都市部の有名私立大学へ無理して進学するのもいいけれど、学びたい学部・学科が地元の私立大学にもあるのなら、それが無名であったとしても金銭的な不安を抱えずにのびのびと勉強し、そこでトップクラスの成績を収めて、より良い就職を目指した方が幸せかもしれません。
不用意に貸与型奨学金を受けてしまうと、人生の大切な時期を不毛な借金返済に追われてしまう可能性がありますので、いかに安いコストで大学生活を送るべきかという視点で大学を選ぶ必要があると思います。

松本肇(まつもと・はじめ)
教育ジャーナリスト

専門分野は大学改革支援・学位授与機構を活用した学費取得方法、通信制大学・通信制高校・高卒認定試験・専門学校など。著書「短大・専門学校卒ナースが簡単に看護大学卒」等。
いわゆる「学歴フィルター」と呼ばれる価値観よりも、大学で得られる「アカデミックスキル」という数値化しにくい教育の有無に関心がある。
フジテレビ「めざまし8」、「ホンマでっか!?TV」、ABEMA「アベマプライム」などでゲストコメンテーターを務める。