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親を揺るがす入金の季節
 ~大学授業料・納付金の「今昔」~

受験シーズンも終盤に向かい、受験生は続々と入学する大学を決めているところです。そこで現実として迫ってくるのが、入学金や授業料など初年度納付金の入金です。もちろん2年次以降も、授業料や施設整備費などを賄うという現実が待っています。学生も保護者も大変な、大学の学生納付金。その「今昔」を振り返りながら、どう対処したら良いのか考えてみましょう。

50年前は月3000円!? 国立大学の授業料

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こんなに変わった大学に払うおカネ
国立 公立 私立
入学年度 授業料 入学料 授業料 入学料 授業料 入学料
1975年 36,000 50,000 27,847 25,068 182,677 95,584
1993年 411,600 230,000 405,840 329,467 688,046 275,824
2005年 535,800 282,000 530,586 401,380 830,583 280,033

注)文部科学省の資料から作成、公立・私立大学の額は平均、公立大学入学料は地域外からの入学者の平均

50年ほど前は国立大学の授業料が月額にして3000円だった……と言ったら、驚くでしょうか。
文部科学省が公表している「国公私立大学の授業料等の推移」という表があります。それによると1975(昭和50)年度は、今とは物価が全然違いますが国立大学の授業料が年間3万6000円、入学料が5万円でした。公立大学はもっと安く、平均で授業料が2万7847円、入学料が2万5068円。私立大学は授業料が18万2677円と国立の約5倍、入学料も9万5584円と2倍近くで、国公立に比べ割高感は否めませんでした。
1970年前後といえば戦後の第1次ベビーブーム世代(団塊の世代)が大学に進学する時代で、急速に増えた進学者の多くを私立大学が吸収しました。「マンモス大学」では1教室に100人、200人を入れて一方的に講義を行う「マスプロ教育」が当たり前で、そんな教育態勢への不満が学生運動につながった、という社会的背景もありました。
保護者の世代はどうだったのでしょうか。時代が昭和から平成に移るにつれ、国の財政難と「受益者負担」の強まりで、国立大学も授業料と入学料を交互に引き上げる年が続き、初年度納付金はみるみる上がりました。30年前の1993年度を見ると、国立大学の授業料は、私立大学の平均額の60%にまで迫っています。
それが2004年に国立大学が国の直轄から「国立大学法人」に移管され、国の定める「標準額」で授業料は05年度から53万5800円に据え置かれたままです。各法人の判断により標準額の20%まで上乗せが認められているのですが、大学間の競争もあり、学部レベルで授業料を引き上げる国立大学はしばらく現れませんでした。

生き残りを懸けて続々値上げ

しかし東京工業大学が19年度から国立大学として初めて学部の授業料を63万5400円に引き上げると発表すると、東京芸術大学は上限いっぱいの64万2960円に引き上げました。20年度からは一橋大学と千葉大学、東京医科歯科大学が、それぞれ上限額までの引き上げに踏み切っています。東京農工大学も24年度からの引き上げを決めています。
これらの大学は「世界トップ10」を目指す(東工大)、全員留学でグローバルな人材を育成する(千葉大)など、教育・研究の充実を理由に挙げています。いい教育をきめ細かに行うには、それなりの経費が掛かるのに、国からの運営交付金は増えないため、授業料を上げざるを得ない、というわけです。
もともと収入の多くを学生納付金に依存してきた私立大学は、もっと深刻です。

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私立大学の初年度学生納付金等の推移
学生納付金 合 計 参考 総計
授 業 料 入 学 料 施設整備費 実験実習料 そ の 他
2008年度 848,178 273,602 187,281 1,309,061 37,744 106,270 1,453,075
09年度 851,621 272,169 188,356 1,312,146 37,151 105,562 1,454,859
2010年度 858,265 268,924 188,477 1,315,666 35,581 106,306 1,457,553
11年度 857,763 269,481 187,007 1,314,251 35,421 103,140 1,452,813
12年度 859,367 267,608 188,907 1,315,882 35,337 91,878 1,443,097
13年度 860,266 264,417 187,907 1,312,590 34,753 86,986 1,434,329
14年度 864,384 261,089 186,171 1,311,644 34,914 88,438 1,434,996
15年度 868,447 256,069 184,446 1,308,962 34,763 94,846 1,438,571
16年度 877,735 253,461 185,620 1,316,816 33,659 93,492 1,443,967
17年度 900,093 252,030 181,294 1,333,418 34,069 88,242 1,455,729
18年度 904,146 249,985 181,902 1,336,033 34,412 90,331 1,460,776
19年度 911,716 248,813 180,194 1,340,723 34,644 91,163 1,466,530
2020年度 927,705 247,052 181,466 1,356,223 34,652 89,317 1,480,192
21年度 930,943 245,951 180,186 1,357,080 34,462 91,423 1,482,964
23年度 959,205 240,806 165,271 1,365,281 28,864 83,194 1,477,339

※各年度における私立大学入学者に係る初年度学生納付金等平均額(定員1人当たり)
注)文部科学省の資料から転載、年度は西暦に変更

文科省が公表している別の表を見ると、学生納付金の平均額は23年度に136万5281円と、08年度と比べると15年間で5万6220円しか上がっていません。ただし、これは入学年度の納付金です。内訳をよく見ると、入学料が27万3602円から24万806円とむしろ下がっているのに、授業料は84万8178円から95万9205円と、11万1027円も上がっています。つまり「初年度」納付金を押さえる分、4年間払ってもらう授業料は、しっかり上げているわけです。
現在の大学は、世界トップレベルを目指さないまでも、教育方法で討論やフィールドワーク、発表などのアクティブ・ラーニング(能動的学修)を採り入れて社会で活躍できる汎用的能力を育成する丁寧な教育が普通になり、そのための施設・設備としてラーニング・コモンズ(学習空間)などの整備も不可欠になっています。その上、主な入学年齢である18歳人口が減少し、本格的な統廃合が迫られています。よい教育・研究を行い、社会から評価されなければ、生き残れない時代に入りつつあります。そのための授業料値上げというわけです。
今後、国公立を問わず、授業料などの見直しは加速することが予想されます。ちゃんと納付金に見合った教育をしてくれるのか、あるいは安くても自分に合ったいい教育をしてくれる大学はどこか、ブランドにこだわらず賢い選択をする目も、これからの受験生には求められるかもしれません。

渡辺敦司(わたなべ・あつし)
教育ジャーナリスト

1964年北海道出身、横浜国立大学教育学部卒。教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て98年よりフリー。主著に『学習指導要領「「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社、2022年10月)。