学費ナビ

コロナ明け・円安時代の
リーズナブルな留学先とは

高校通算140本塁打を記録した、花巻東高校の佐々木麟太郎内野手の進学先が米国スタンフォード大学に決まりました。同大は、東のハーバード、西のスタンフォードと称されるように名門大学として有名です。同時に学費が非常に高いことでも知られていますが、佐々木選手は「フルスカラーシップ」と呼ばれる奨学金による進学のため、授業料・住居費などが完全に免除されるとも発表されました。

スタンフォード大学の学費は4年で5000万円

同大学のホームページによると、2023-24年の学費は授業料が四半期20,577ドルですので、1年で82,308ドル、4年間で329,232ドル(約5,000万円)にのぼります。
この他、住居費(寮費・光熱費・インターネット使用料)が4年で71,312ドル(約1,070万円)。
食事付なら4年で42,384ドル(約636万円)、保険料4年で38,016ドル(約570万円)など、4年間総額7,200万円を超えます。
 
※1米ドル=150円で計算。

スタンフォード大学ホームページ

コロナ禍を機に日本人の海外留学が激減、今は円安が影響か

日本学生支援機構が発表している「日本人学生の留学状況の推移」によると、ほぼ毎年右肩上がりで増加し、2017年度には10万人を超えていた留学生人口が、コロナ禍を機に激減しています。

独立行政法人日本学生支援機構「2021(令和3)年度 日本人学生留学状況調査結果」より転載

コロナ禍が落ち着いたことで、留学需要はある程度回復することは予想できます。しかし、ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナなどの戦争の影響、原油をはじめとするあらゆる商品相場の急騰などを機に世界的な物価高が起こっています。そして日本では円安が進んでしまったことにより、留学にかかるあらゆる費用が高騰しています。中でも以前より学費や生活費が高いとされるアメリカ留学は、円安の今、避けられる傾向があります。
そんな中で、アメリカの名門私立大学は、大学に対するOBからの多額の寄付金が学校経営を支えていることなどから、成績優秀な学生への返済不要な奨学金や、年収10万ドル以下の世帯などに対する授業料免除制度などが充実しています。ただ、出身高校の成績、SAT(Scholastic Aptitude Test)やACT(American College Testing)などの共通テストのスコア、エッセイ(志望理由書)など、成績優秀であることを示す資料が奨学金給付の根拠にもなっています。そもそも入学を許可されるだけで成績優秀者ともいえますが、一口に「奨学金」といっても、授業料のみが免除とか、入学後は一定の条件をクリアし続けないと奨学金が止められてしまうなど、奨学金の性質によって条件は様々です。留学を志望しつつも、奨学金を獲得できるほどの学力を持っていない学生にとってはアメリカを選択肢に入れることは難しく、仮に授業料が免除になったとしても、衣食住や交通費など、あらゆるもののコストが高くなっていますので、コロナ前よりも留学が不利であることは否めません。

留学経験者は日本での就職に有利な理由

留学には、日本の大学に在籍しながら提携する外国の大学に在学する「協定あり」と、そうではない「協定なし」に分けられます。前者は交換留学と呼ばれる学生を派遣するケースや、大学相互で単位互換をしているだけというのが一般的で、最終的に卒業した大学が日本の大学なら学位は日本の大学となります。後者は日本の大学に頼らず、現地の大学を卒業するので現地大学の学位を授与されるのが通常です。協定があってもなくても、他国で1年から数年に渡って大学教育を受けてきたという経歴は、日本においてはとても大きな武器になります。
なんといっても、同じ外国語教育であっても、日本の教育だけで外国語を学んだ人より、現地で外国語を使って専門分野を学んできた人の方が、即戦力や新しいことへの探究心などが期待されるため、海外進出を目指す企業や外資系などの外国語を必須とする企業からの評価が高いことは想像できると思います。
コストの問題で留学が困難な時代だからこそ、それを乗り越えた留学経験者の価値は高まると考えて間違いはないでしょう。

中国語と英語が学べる台湾が人気

日本学生支援機構の2011年の調査によれば、協定ありの留学先の1位はアメリカ、2位は中国、3位は韓国です。一方、2019年の調査では1位はアメリカなのですが、2位はオーストラリア、3位はカナダです。

平成23年度 協定等に基づく日本人学生留学状況調査結果
2019(令和元)年度 日本人学生留学状況調査結果 より転載

英語圏への人気が高くなってきているようにも見えますが、この二つの年の「台湾」に注目・比較してみると、順位は二つ上がり、学生数は5倍近くに増加しています。
この変化の要因はいくつか考えられます。台湾は公用語が中国語であると同時に、授業を英語のみで行う課程を持つ大学があることが挙げられます。
台湾への留学支援を行う「一般社団法人台湾留学サポートセンター」の安蒜美保会長によれば、現地の大学入学までに一定の英語・中国語の基礎学力が必須であるものの、現地では高度な専門分野を英語・中国語で学ぶことができる、学費や生活費が安い、治安が良い、日本人に好意的な人が多い、英語圏の大学に比べて入学に必要な英語基準が緩やかである、台湾経由で他国に留学することも可能など、メリットの多いところが人気の理由だそうです。

台湾では奨学金も充実

台湾の大学に留学経験のある佐藤あさえさんにインタビューしました。
佐藤さんは日本の私立大学在学時代に国立中山大学(高雄)に留学し、日本の大学を卒業しました。その後、2016年に入学した国立成功大学(台南)では、現地の生活費(家賃・光熱費・携帯・食費)で月額25,000NTD(ニュー台湾ドル)で、学費は年間60,000NTD、合わせて1年で360,000NTDです。当時のNTDのレートでは133万円程度となります。
ただし、佐藤さんは日本の財団法人と成功大学の留学生向け給付型奨学金を受けられたため、年120,000NTD(当時は45万円)程度の収入があったそうです。差し引き年間88万円で学費と現地での生活費を捻出できたことになります。
佐藤さんによれば、台湾の大学が備えている奨学金の多くは、「成績主義」であることがほとんどで、毎学期の成績上位者に給付されるようです。

※2016年当時のレート:1NTD=3.7円で計算

そして現在です。昨年までのコロナ禍により、感染リスクの関係から、留学生の数は激減し、奨学金を希望する学生の絶対数も減りました。留学生が減ったことで、逆に留学生向けの奨学金が得られやすい環境ともいえます。
円安が進み、2024年3月現在の1NTDは4.7円となっていますので、佐藤さんと同様の奨学金を受けられるケースでは学費と生活費の概算予算は113万円と見積もることができます。それでも日本では学費・生活費の合計は200万円くらいが必要であることと比較すれば、留学したのに日本よりも安く、英語と中国語が学べる、奨学金や学費の減免措置を受ければかなりリーズナブルに留学ができることがわかると思います。

英語人口は15億人、中国語人口は13億人

一般に、世界で英語を公用語または準公用語としている国の人口は15億人、中国語を公用語・話者としている人は13億人いるといわれています。
インターネットを介して様々な国の情報を収集できる時代だからこそ、複数言語に対応できる人材が求められています。

松本肇(まつもと・はじめ)
教育ジャーナリスト

専門分野は大学改革支援・学位授与機構を活用した学費取得方法、通信制大学・通信制高校・高卒認定試験・専門学校など。著書「短大・専門学校卒ナースが簡単に看護大学卒」等。
いわゆる「学歴フィルター」と呼ばれる価値観よりも、大学で得られる「アカデミックスキル」という数値化しにくい教育の有無に関心がある。
フジテレビ「めざまし8」、「ホンマでっか!?TV」、ABEMA「アベマプライム」などでゲストコメンテーターを務める。