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「専門職大学」がおもしろい
大学と専門学校のいいとこ取り

2025年度以降の募集停止を公表した短期大学は20校余りにのぼる一方、専門職短期大学や専門職学科を含めて現在24校の「専門職大学」が存在し、既に卒業生を輩出した大学も出てきました。専門職大学は2017年の学校教育法の改正を受け、同法が19年に施行されたことで誕生した大学と専門学校の長所を取り入れた大学です。今までの大学や短期大学と専門職大学とどこが違うのでしょうか。その展望についても解説したいと思います。

専門職大学卒で海外就職、起業の道も

従来型の大学と比較すると、専門職大学は特徴的な点がいくつもありますが、注目すべき点は以下の4つです。
 
1.卒業に必要な単位のうち、3分の1以上が実習・実技
2.授業は原則40人以下の少人数制
3.600時間以上の企業内実習が必修
4.教員の40%以上が業界経験豊富な実務家教員
 
このように仕事に直結する授業を行うことで、就職率を高く維持するとともに、早期離職を避けることが期待できます。
 
2019年に開学した国際ファッション専門職大学(本部:東京都新宿区)は、その名の通り、ファッションビジネスの専門的な知識や技術が即戦力として評価される専門職大学です。第1期は155名、第2期は193名の卒業生が誕生し、いずれも希望者就職率100%の実績を残しました。また、コロナ禍で1期生では実施できなかった全員必修の海外実習の機会を2期生には提供できて実際に海外就職という結果を残した卒業生も出たそうです。
かたや、情報経営イノベーション専門職大学(本部:東京都墨田区)は、イノベーションを起こす人材育成を掲げており、第1期卒業生は142名が誕生し、希望者の就職率は97.5%となりました。既存の就職だけではなく、在学中の起業を目標に掲げていることから、卒業生の10%が実際に起業の道を進んだそうです。

専門職大学は大学

専門職大学は4年制のものを指し、2年または3年課程のものは「専門職短期大学」と呼びます。
「大学」は、学校教育法の第1条に掲げられていることから、「一条校」とも呼ばれる学校類型のひとつです。この一条校に掲げられている学校のうち、私立の学校は、私立学校振興助成法という法律に基づき、大学は「私立大学等経常費補助金」などの私学助成が行われる対象です。
一方、専門職大学と同じように「専門」という言葉が入っている「専門学校」と呼ばれる専修学校(専門課程)については、一条校ではないため、私立学校であっても、私立学校振興助成法に基づく助成がなされません。
専門職大学は、学校教育法第83条の2によって「前条の大学のうち、深く専門の学芸を教授研究し、専門性が求められる職業を担うための実践的かつ応用的な能力を展開させることを目的とするものは、専門職大学とする」として、法律で明確に定義されていますので、専門職大学を卒業すれば大卒、専門職短大を卒業すれば短大卒になれるという意味では同じ大学です。
 
ただ、ややこしいことに、大卒相当の学位に当たる「学士」や短大卒相当の「短期大学士」は学校教育法という法律に定められている一方、専門職大学卒業相当の学位である「学士(専門職)」や専門職短大卒相当の「短期大学士(専門職)」は法律ではなく、文部科学大臣が定める学位、つまり学位規則という省令によって定められているので、法的な取り扱いが異なるケースがあります。しかし、卒業で得られる学歴は「大学卒業」や「短大卒業」と考えて間違いありません。

専門学校 高等教育機関としての地位確立

専門学校は、「専修学校」という学校形態のうち、大学入学資格(高卒など)を有することを入学資格とした学校で、工業、農業、医療、衛生、教育・社会福祉、商業実務、服飾・家政、文化・教養の8つの分野について職業教育を行います。専門学校の一般的なイメージでは、大学へ行けなかった人たちが妥協して行くところと思われがちですが、1999年に「修業年限が2年以上で総授業時数が1700時間以上の専門学校を修了した者は大学3年次に編入できる」と制度改正されたことから、職業教育を行うと同時に4年制大学の一部をになう学校として、高等教育機関としての地位を確立しています。

専門学校は不況時の就職率の高さで大学を圧倒

職業に必要な専門的な技術や知識を学ぶ学校なので当然ですが、過去20年のデータを集計すると、大学よりもはるかに就職率が高いことがわかります。職業教育を行う前提の学校ということもあり、就職率が高いことは想像できると思います。そしてこの就職率は不況に強いとされ、この約20年の就職率を見てみると、ITバブル崩壊後の2004年は大学就職率55.8%に対して専門学校の77.4%、リーマンショック後の2010年は大学就職率60.8%に対して専門学校の74.7%など、この就職率の高さを見れば、「専門教育を受けた人、有資格者を即戦力として迎えたい」という狙いが不況時の企業の採用担当にあったことは予想できます。

文部科学省「学校基本調査報告書」から作成

就職率が高く、高等教育機関の一角をになう専門学校の多くは2年制、3年制の課程が多く、修了者は「専門士」の称号を得られます。2005年の学校教育法施行規則の改正により、さらに4年制(総授業時数が3400時間以上)の課程の修了者には「高度専門士」の称号が与えられることになりました。
したがって、高度専門士は就職などでは4年制大学卒業と同等と認知され、学士を持たずとも大学院進学ができるようになりました。

専門職大学でも国際通用力のある学歴に

「高度専門士を付与する4年制の専門学校は大学と同じ」という制度の誕生により、大卒相当と認められた4年制専門学校ですが、残念ながら諸外国に向けてはそうはいきません。
文科省の定めた英文表記では、高度専門士は「Advanced Diploma」、学士は「Bachelor Degree」といいますが、英語圏ではどうしてもビザの発給基準や大学院進学の基礎資格となる「Bachelor」を大卒と認めます。そのため、「Diploma」では国際通用力が乏しいとされています。
そこで、専門職大学では、従来型の大学よりも高度な職業人を養成するという性質に加え、従来型の専門学校のカリキュラムを大学に近づけたことで、諸外国に対しても学士であることを、日本政府として公的に証明することができます。
例えば、前出の国際ファッション専門職大学の国際ファッション学部ファッションクリエイション学科を卒業した者には「ファッションクリエイション学士(専門職)」が与えられます。英文表記では「Bachelor of Fashion Creation」です。この表記による学位証明書が発行されることで、国際通用力のある学歴となります。

日本型専門大学として期待

20世紀にアメリカで鉄鋼王と称されたアンドリュー・カーネギーが設立した財団の一つにカーネギー教育振興財団があります。この財団が作成した「博士号授与大学」「リベラルアーツ型」など、大学の性格を分類する「カーネギー分類」は、高等教育の多様性を分析する際の目安の一つです。日本の専門職大学は職業専門教育を行い、学位を授与するので、「専門大学(Specialized Institutions)」に当たり、アメリカでは全大学の2割を占めるとまでいわれています。

機関の種類 カーネギー教育振興財団の分類基準
博士号授与機関 博士号授与大学-多角型 学部段階における多様な専攻と博士号取得課程までの大学院教育を提供。15分野以上で年50件以上の博士号を授与
Doctoral/Research Universities—Extensive
博士号授与大学-集約型 学部段階における多様な専攻と博士号取得課程までの大学院教育を提供。10分野以上で年10件以上の博士号を授与または年20件以上の博士号を授与
Doctoral/Research Universities—Intensive
修士号授与機関 修士号授与大学Ⅰ 学部段階における多様な専攻と修士号取得課程までの大学院教育を提供。3分野以上で年40件以上の修士号を授与
Master's Colleges and Universities I
修士号授与大学Ⅱ 学部段階における多様な専攻と修士号取得課程までの大学院教育を提供。年20件以上の修士号を授与
Master's Colleges and Universities II
学士号授与機関 リベラルアーツ型 学部教育に重点。授与する学士号の半数以上が一般教養の分野
Baccalaureate Colleges—Liberal Arts
一般型 学部教育に重点。授与する学士号の半数未満が一般教養の分野
Baccalaureate Colleges—General
準学士授与型 学部教育に重点をおくが、授与学位のほとんどは学士号未満
Baccalaureate/Associate's Colleges
準学士号授与大学 準学士号のみを授与
Associate's Colleges
専門大学 独立した機関として職業専門教育を行い,学士号以上の学位を授与。神学,医学,法学など
Specialized Institutions
少数民族を対象とした大学
Tribal Colleges and Universities

Carnegie Classification of Institutions of Higher Education 2000年(筆者翻訳)

日米の高等教育制度は違うところも多いため、単純な比較はできませんが、2024年現在、我が国の専門職大学は、専門職学科を有する1校を含めてもわずか24校です。
今後は国際通用力の高い専門職大学が増えていくことが期待されます。

松本肇(まつもと・はじめ)
教育ジャーナリスト

専門分野は大学改革支援・学位授与機構を活用した学費取得方法、通信制大学・通信制高校・高卒認定試験・専門学校など。著書「短大・専門学校卒ナースが簡単に看護大学卒」等。
いわゆる「学歴フィルター」と呼ばれる価値観よりも、大学で得られる「アカデミックスキル」という数値化しにくい教育の有無に関心がある。
フジテレビ「めざまし8」、「ホンマでっか!?TV」、ABEMA「アベマプライム」などでゲストコメンテーターを務める。