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いつまで「偏差値」で

進学先を探してるの?

いつまで「偏差値」で
進学先を探してるの?

受験に当たって偏差値を参考にすることは、今では小学校(中学受験)からなじみがあるかもしれません。大学受験なら、なおさらでしょう。しかし今、本当に偏差値は大学選びの参考になるのでしょうか。

多くの受験者がいることが前提

模試などで使われている偏差値とは、受験者の得点分布の中で自分がどのぐらいの位置にいるかを示すものです。得点は「正規分布」、つまり平均点を50としてグラフにした時に大きな山が真ん中にでき、両端に裾野が広がるような形になることが前提です。
受験で参考にするのは、むしろ偏差値が示す「合格可能性」の方でしょう。各模試では、受験者の動向から、合格可能性が高い偏差値帯を独自に割り出しています。
注意しなければならないのは、学部や学科の合格可能性を割り出すにも、それなりの受験者数が必要だということです。しかも実際の入試は個別の大学が行うものですから、模試の結果がそのまま反映されるとは限らないことは言うまでもありません。

輪切りや序列化を助長

偏差値は1960(昭和35)年前後に開発されましたが、大きな効力を発揮したのは79(昭和54)年に国公立大学の「共通第一次学力試験(共通一次)」が創設されてからです。当時は一律に5教科7科目(現在の地理歴史科と公民科は「社会科」)が課されていましたし、私立大学も3教科入試(文系は国語・社会・英語、理系は数学・理科・英語)が一般的でしたから、一つの模試でもあらゆる大学・学部の合格可能性を比較的高い精度で算出することができたわけです。そんな中で偏差値が、大学・学部に上から下まできれいな順位を付ける「偏差値輪切り」や「序列化」を助長してしまったのです。

18歳人口が減る中での入試改革

共通一次が、私立大学も参加できる「大学入試センター試験」に切り替わったのが1990(平成2)年でした。脱偏差を目指した入試改革で、各大学が教科・科目を自由に指定できる「アラカルト方式」も採用されました。これをきっかけに、大学入試の多様化が進みました。
注意したいのが、大学入試の主な受験者層である「18歳人口」の動向です(表1)。共通一次が始まった79年は156万人、センター試験が始まった90年は201万人ですが、その後18歳人口が急減する一方、入試の多様化はますます進みました。センター試験が現在の大学入学共通テストに衣替えした2021(令和3)年は114万人と、79年に比べて約40万人減、90年に比べれば90万人近く減っています。
しかも今や、入学者に占める一般選抜の割合は半数を割りました。私立大学では総合選抜型・学校推薦型選抜が6割を占め、同じ学部・学科でも複数の入試区分があるのが普通です。中には大学の教職員自身が「覚え切れない」と自嘲するほど多くの入試区分があることも珍しくはありません。

(表1)

出典:文部科学省「学校基本統計」

大学の再編・統合時代も控えて

文部科学相の諮問機関である中央教育審議会(中教審)は現在、大学の再編・統合や地域での連携・協力を含めた在り方を検討しています。文科省は、上昇傾向にあった大学進学率も頭打ちになり、進学者数が2026年をピークに減少局面に入ると推計しています(表2)。そんな時代に備えて、各大学も統廃合や学部・学科の改編をいっそう進めることでしょう。大学は、必ずしも今のままの形で存続できるわけではありません。

(表2)

出典:文部科学省「学校基本統計」

そんな入試環境の変化にあって、いつまでも単一の尺度である偏差値が通用するのでしょうか。入りたい大学に向けて勉強を頑張るための指標にはなっても、偏差値から大学を選ぼうとするには無理があると言わざるを得ません。まずは偏差値にとらわれず、自分に合った大学選びをする方が賢明なようです。

渡辺敦司(わたなべ・あつし)
教育ジャーナリスト

1964年北海道出身、横浜国立大学教育学部卒。教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て98年よりフリー。主著に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社、2022年10月)。