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したたかな計画が必要な

「総合型選抜」

したたかな計画が必要な
「総合型選抜」

早稲田大学と学習院大学の「指定校推薦」を狙って日々精進している鈴木君。ある日、担任の先生から思いもよらない言葉が飛び出します。卒業生の成績が良くなかったのだろう。早稲田の指定校推薦枠がなくなったといいます。先輩の所業を恨んでも始まらないので、狙いを学習院に絞ることを先生に伝えて勉強します。指定校推薦の生徒を決める会議で最終選考に残ったのは鈴木君と斎藤さん。学校長が推したのは斎藤さん。鈴木君が選ばれなかった理由、斎藤さんを選んだ理由は教えてもらえませんでした。季節はもう冬。主な大学の自己推薦やAO(アドミッションオフィス)入試の出願締め切りは過ぎていたので、鈴木君は一般入試に挑戦するしかありません。

総合型選抜 出願は9月 準備は早めに

大学の学校推薦型選抜は高校3年の11月ごろに出願し、年内に合否が決定します。一般選抜は、年が明けてから共通テスト、2月に多くの選抜試験が行われ、3月ごろには合否が決まります。
一方で、総合型選抜は9月に出願し、書類選考・面接などを経て10月末から11月上旬に合否が決定します。つまり、9月の出願時には、総合型選抜の評価対象とされるものを提出する必要があります。各種コンクールや外国語の検定試験結果などを評価されるためには、高校2年までか、遅くとも高校3年の夏休み前までの実績が必要です。
高校時代の各種活動をするに当たり、それが大学の総合型選抜のための実績づくりと考えて活動するのはつまらないかもしれません。ただ、高1や高2の段階で、志望する大学をリストアップしてみて、今やりたいことが大学入試で評価されるのであれば、モチベーションのひとつとして力を入れるというのも悪くないと思います。

大学入試は3つのパターン

高校を卒業した若者の主な進学先というと、大学・短大・専門学校などが挙げられます。平成10年の高校卒業者に対する4年制大学進学率は約36%でしたが、令和元年は53%と上昇しました。少子化の影響から、大学進学は容易になってきたといえます。しかしながら大学は学問を行う教育機関なので、希望すれば誰でも入学できるというものではありません。やはり大学で学ぶために必要な学力を持っている必要がありますから、入学を希望する大学に対し、志願者は大学で学ぶにふさわしい学力があることを示さなければなりません。そのため、入試を経る必要があります。

現在、文部科学省は入試を一般選抜、学校推薦型選抜、総合型選抜の3つの形態に分類しています。

一般選抜は、高校までの教育指導要領に沿った学力試験を課され、各科目の配点に応じた合計得点で上位の者が合格します。試験問題は大学が独自に作成しますが、「大学入学共通テスト」と呼ばれるテストがあって、国公立大学ではこのテストを一次試験として課し、次いで二次試験等を行って合格者を決定します。また、このテストの得点をもって自校の一般入試に代えて合否を決定する私立大学等も多く存在します。

次に学校推薦型選抜は、高校の学校長から推薦を受けることを受験資格とする入試制度で、例えば私立大学では過去の入学者の成績などから出身の高校に対して一定の入学定員を割り振って合格を確約する「指定校推薦」と、受験資格のみを与える「公募型推薦」があります。いずれも学校長が推薦をするにふさわしい学力を持つ人物であることが前提なので、一定以上の成績や出席日数を満たしている必要があります。

そして総合型選抜は、近年では多様化が進んできた自己推薦やAO(アドミッションオフィス)入試などのことを指し、学校長の推薦を必要とせず、あくまで志願者の学ぶ力や適性、意欲などを総合的に評価し、合否を決定する入試方式とされています。現在、この選抜方式による入学者は10人に1人と言われており、高校生までのあらゆる活動が評価されることから注目されています。

文部科学省「大学入学者選抜関連基礎資料集」令和3年6月より転載

総合型選抜は学力だけでは計れない人物を発掘する試験

総合型選抜は、一般選抜のようにペーバーテスト重視でもなければ、学校推薦型のように真面目な学校生活を重視するというものでもありません。
例えば、高校時代に行っていた部活動やスポーツの実績が評価されるもの、ボランティア活動で一定の評価に値するもの、趣味の延長であっても大学での学びに近いとされるものなど、実に多様な評価軸があります。
また、国公立大学では、公平性の観点から、大学入学共通テストの受験を必須として、一定の得点が求められるケースも多くあります。
私立大学では学校によって、多様な方式を取り入れています。ただし、基本的に書類審査と面接は必須で、小論文試験や学力試験を課すところ、または体験授業などの参加を通じて大学生活との適性を計るところなど、組み合わせは数通りあります。
結局、大学としては、学力試験では評価されにくい、計り知れない能力・発想力・問題解決力などを持つ人を発掘したいと考えているのではないでしょうか。そのため、志望する大学が求める人材であることをアピールするための対策が必要ということになります。そこで高校時代の学校の授業とは別の、部活動・ボランティア活動・スポーツでの実績・資格や検定試験合格・上級の外国語能力などが評価されるということになります。

総合型選抜のメリット・デメリット

一般選抜が学力試験、学校推薦型選抜は出身校の推薦と面接なのに対し、総合型選抜は推薦も学力試験も必要とせず、志願者の「やる気」や「学問に対する探究心」など、点数化・数値化しにくいものを評価します。
志望者側のメリットとしては、模擬試験などで学力試験での得点は見込めないとわかった時、高校時代に獲得した部活動の受賞歴や資格試験、または大学の志望理由書などに記す研究計画が評価されるのであれば、無理な受験勉強を避けることが挙げられます。
逆に、大学や教員にとって理解の及ばないもの(例えば芸術的すぎる作品、先進的すぎる研究)だった場合は受験するだけ無駄となってしまいます。高校までの学習指導要領とは別の評価軸だけに、模範解答の無い試験に挑まなければならないのは苦痛かもしれません。
また、総合型選抜で合格しても、一般選抜や推薦型選抜の学生と比べて学力が乏しい学生は、卒業要件を満たせずに中途退学してしまうリスクが高いとされています。学生の中退は、主たる収入源となる授業料収入が減少するため、大学にとっても悩ましいところです。

総合型選抜の先駆け、慶應義塾大学のAO入試とは

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス総合政策学部・環境情報学部が1990年に導入したAO入試は、他大学に先駆けたものとして有名です。
2024年度実施の募集要項によれば、募集人員は各学部150名(計300名)。入学試験は1次が書類選考、2次が面接です。
2023年度実施の選抜試験では、各学部計1294人の志願者に対し、250人の最終合格者となっているので、5倍以上の競争率です。
難易度は計り知れませんが、1次選考の免除要件として、例えば「日本数学オリンピック予選Aランク者」、「日本地学オリンピック 金賞受賞者」など、各種イベントや資格試験などで他者を圧倒するような能力・実績が求められています。それらを有していない場合は、それに準ずるような志望理由・入学後の学習計画・自己アピールを行うなど、極めて独創的なものが必要と思われます。
また、仮にどうにか対策を講じ、教員の目を引く独創的な書類を取り繕って提出したとしても、2次選考の面接(30分程度)でその知識の裏付けとなる対応ができなければ合格できないため、書類選考と面接で倍率が5倍といっても、楽とはいえません。それでも、募集人員が300名というのは規模が大きいといえます。

一般的な大学では1学部当たり数十名程度

慶應が2つの学部で300名の募集をしているのに対し、例えば中央大学法学部のチャレンジ入学試験は30名、早稲田大学社会科学部の自己推薦入試は35名、日本大学法学部の総合型選抜は50名と、比較的大規模な大学であっても、1学部当たりの募集人員は数十名程度というのが普通です。
総合型選抜は、書類選考や面接だけでも相当な手間と時間がかかる選抜方式ですので、募集人員を少なくするというのが一般的です。ただし、日本大学芸術学部については各学科あわせて250名程度もの募集人員があります。やはり学部の性格によって、総合型選抜の募集人員が多いケースもあるようです。

総合型選抜 結局どんな準備をすればいいの?

慶應義塾大学の総合政策学部・環境情報学部のAO入試での1次選考(書類選考)免除要件は、以下のようなコンテストや外国語の検定試験が掲げられています。

1次選考免除対象コンテストの所定の成績

  • 「対象コンテスト」および「所定の成績」は毎年見直しを行い、変更することがあります。コンテストの名称変更等、不明な点があれば出願前にアドミッションズ・オフィスまでお問い合わせください。
対象コンテスト(*慶應義塾関連) 所定の成績
小泉信三賞全国高校生小論文コンテスト* 小泉信三賞受賞者(次席・佳作は除く)
三田文学新人賞* 最終候補者
日本数学オリンピック 予選Aランク者
高校生・高専生科学技術チャレンジ(JSEC) 最終審査進出者
化学グランプリ 1次選考通過者
日本生物学オリンピック 予選(旧:1次選考)通過者
全国物理コンテスト 物理チャレンジ 第2チャレンジでの金・銀・銅,他各賞(奨励賞は除く)受賞者
日本情報オリンピック 本選Aランク者
日本地学オリンピック 金賞受賞者
科学地理オリンピック日本選手権 金メダル受賞者
日本学生科学賞 物理,化学,生物,地学,広領域 地方審査通過者
日本学生科学賞 情報・技術,応用数学 中央予備審査通過者
情報処理推進機構 未踏 IT 人材発掘・育成事業 最終採択者
一般社団法人未踏 未踏ジュニア 未踏ジュニアスーパークリエータ認定者
ファブ 3D コンテスト 入賞者
全国高校生マイプロジェクトアワード 文部科学大臣賞,マイプロジェクトアワード特別賞,ベスト・オーナーシップ賞,ベストコ・クリエーション賞,ベスト・ラーニング賞
高校生ビジネスプラン・グランプリ グランプリ,準グランプリ,審査員特別賞,優秀賞受賞者
全国高校生ドイツ語スピーチコンテスト(第3部) 最優秀賞受賞者
実用フランス語技能検定試験 「1級」合格者のうちの「成績優秀者」「準1級」合格者のうちの「成績優秀者」
福澤諭吉記念全国高等学校弁論大会* 最優秀賞受賞者
高校生バイオサミット in 鶴岡* 入賞者(審査員特別賞は除く)

注意1:上記は全て個人での受賞のみを対象とする(グループやチームで受賞したものは対象外です)。
注意2:中学校卒業以降から AO 入試出願に至る期間での受賞のみを対象とする。

注) 慶應義塾大学 総合政策学部・環境情報学部 AO入試 2024夏秋AO 募集要項から転載


これらは慶應大が掲げる1次免除の要件でありますが、あくまで大学が求める学生像の例示でしかありません。
大学としては、または教員からすれば、「今は学力もさほど高くないけれど、何かに打ち込む資質があり、現状は粗削りだけど、大学に入学してから大きく伸びそうな逸材」を欲しています。
こう考えると、学力試験をショートカットするためだけに手に入れた経歴・活動歴を持った受験生であれば、逆に排除されなければならないということになります。
そうはいっても、大学入学後、学業に向き合う資質を持っているとか、それなりに努力できる受験生を演出することは可能です。例えば志望する学部の教授の著書や論文を入手可能な限り読み込んでそれに対する疑問を探求したい旨を志望理由書に書くとか、建築学科なら可能な限り著名な建築物を訪問してリポートするといったように、実際に体を動かすことで得られる活動実績はあるはずです。その延長線上で自分なりの疑問を文章化し、大学で研究したいことをアピールするのです。
昨今、インターネットで話題になった、中高生の自由研究に「セミの成虫の寿命1週間は本当か」、「蚊に刺されやすい人とそうでない人の比較」、「太宰治の『走れメロス』のメロスの平均速度を求める」などがありますが、彼らは疑問に感じたことを現在入手可能な証拠を集めて調べ、文章化することでメディアに採り上げられました。たかが中高生の自由研究ですが、このような発想の若者を大学で学ばせたいと思うのは不思議ではありませんし、実際に「蚊に刺される人」の研究をしていた田上大喜さんはコロンビア大を経てオックスフォード大の大学院の博士課程に進み、遺伝子を研究しています。
通常、書類選考を担当する教員は数百人分もの選考書類を目にします。つまり、数多くの志願者の中から「この学生に会ってみたい」と思わせるような話題を提供できるような、そんな経歴・活動歴を作り上げなければなりません。高校1年ないし2年生が今からできることには限りがありますが、まずは志望する大学や学部を調べ、その学問分野に則した活動を行ってみてはいかがでしょうか。

松本肇(まつもと・はじめ)
教育ジャーナリスト

専門分野は大学改革支援・学位授与機構を活用した学位取得方法、通信制大学・通信制高校・高卒認定試験・専門学校など。著書「短大・専門学校卒ナースが簡単に看護大学卒」等。
いわゆる「学歴フィルター」と呼ばれる価値観よりも、大学で得られる「アカデミックスキル」という数値化しにくい教育の有無に関心がある。
日本テレビ「DayDay.」、フジテレビ「めざまし8」、「ホンマでっか!?TV」、ABEMA「アベマプライム」などでゲストコメンテーターを務める。