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賛否両論の「12月1日入試」、

受験生と保護者はどう向き合うべきか

賛否両論の「12月1日入試」、受験生と保護者はどう向き合うべきか

大学入試といえば、「高3の冬に行われる学力試験」というのが常識でしたが、最近は高校での成績(評定)や出席日数などをもとに行われる学校長の「推薦」や、学力とは別の評価軸で行われる「AO入試」などと呼ばれる総合型選抜など、学力試験以外の選抜の割合が大きくなってきました。
一般選抜は2~3月、学力試験そのものではない総合型や学校推薦型は秋から年末にかけて行われるという棲み分けがなされていましたが、東洋大学では、新たに「学校推薦入試基礎学力テスト型」が導入され、令和7年度入学生向けに実施されました。
この東洋大学の入試は、受験資格として学校長の推薦があるということが前提なので、いちおう「学校推薦型選抜」ではあるものの、学力試験を課します。つまり、本来は2~3月に行われるべき事実上の一般選抜を、「年内」に行うことから「年内入試」と呼びます。令和6年12月1日に試験、同月10日に合格発表を行ったため、この前倒しの試験開催に対して賛否両論の議論が起こっています。

選抜方法による大学が求める学生像は異なる

昨今の大学入試の形態は、大きく「一般選抜」、「学校推薦型選抜」、「総合型選抜」に分類されています。
文部科学省の「令和6年度国公私立大学入学者選抜実施状況」によれば、令和6年度の4年制大学入学者数61万3453人のうち、約48%が一般選抜、約35%が学校推薦型選抜、約16%が総合型選抜の合格者となっています。

文部科学省「令和6年度国公私立大学入学者選抜実施状況」のデータから筆者作成
https://www.mext.go.jp/content/20241120-mxt_daigakuc02-000038880_1.pdf

「一般選抜」は、個別学力検査といって、いわゆる一般入試の得点によって合否を決定します。そして「学校推薦型選抜」は高校での学習成績や課外活動などの実績をもとに学校長等が推薦することで、実質的には受験資格のみを与えるものと、指定校推薦のように合格がほぼ約束されるものがあります。また、「総合型選抜」は大学が求める学生像に合致した人物を選抜するため、受験生の能力や意欲、適性などを総合的に評価するもので、高校時代のあらゆる活動や実績、志望理由書などが評価されます。
これら複数の性格の異なる入試を行うことで、学力そのものが高い学生、高校の学校長から推薦される学生、そして発想力が富んだ学生を集めることができます。そうすることで、多様な学生たちを集めることによる相乗効果が期待できます。

少子化時代のあざとい生き残り戦略か

文部科学省は、一般選抜に相当する学力試験を「個別の学力検査」と呼び、「大学入学者選抜実施要項」によって、試験期日を2月1日~3月25日と定めています。
こうしてわざわざ試験の日程を定めているのは、学習指導要領に従って授業を行うことが大原則であるからです。つまり、大学入学資格である高等学校卒業を目指すのであれば、高3の12月末までのカリキュラムを終えた上で受験せよというのが前提なのです。それを前倒しして、事実上の一般選抜を行うのであれば、高校教育を軽視することになります。
大学としては新たな入試の機会を増やすことで、受験料収入が増えます。そして一定の入学者数を確保することができます。文系の学生1人が4年間在籍すれば、計500万円程度の収入が得られるし、仮に入学手続後、他大学進学のために辞退されたとしても、入学金の25万円は返還しなくてもよい上、辞退された分は不合格者上位から繰り上げ合格させることも可能ですから、収入面でのメリットが大きいと言えます。
しかし、本来の「学校推薦型選抜」は、例えば「評定平均が4.0以上で、欠席・遅刻・早退が少ない、部活動等もまじめに取り組んできた」という一定の実績を持った理想的な生徒に対して学校長が推薦します。この東洋大学の年内入試については、そういった条件が不要なのですから、本来の学校推薦型選抜の基準を無視した「名ばかり推薦」といっても過言ではありません。しかも、「基礎学力テスト」という名の2科目試験です。基礎学力テストなのですから、通常の一般選抜よりも、難易度は低いということになります。もし、12月の段階で早々に合格となった場合、1月の共通テスト、2月の本番の時期に本命の大学を受験する気力が失せてしまうなんて受験生も多いはずです。つまり、早々に合格してしまうことで、追い込みでレベルを上げるために必死で勉強するというプロセスを経験しないまま、入学する日まで怠けてしまう可能性が高くなります。
さらに、事実上の「一般選抜の前倒し」のような入試が許容されるとなると、同じように前倒しの試験を行う大学が出てくることが予想されます。そうすると、今後は学生の確保を急ぐあまり、もっと容易に合格させてしまう大学が増え、全体的に学力が下がってしまうことが懸念されます。

メリットはあるが、金銭的な負担増も

もし、読者の皆さんが、例えば東洋大学に入学したいと思い、一般選抜の受験を考えていたのであれば、受験の機会が増えるということや、合格すれば他の受験生よりも早く受験生活から抜け出せるのですから、年内入試に挑戦するメリットはあると思います。また、英検などの英語外部試験のスコアも利用できるため、高いスコアを獲得している人は当然有利です。
ただし、気をつけなければならないのは、東洋大学の「学校推薦入試基礎学力テスト型」は、募集人数が各学科5~20名程度と少なく、しかも2科目の基礎学力受験ということは、学部・学科によっては、平均点や合格点が高くなります。つまり、基礎学力と言いながら、受験生が多ければ、当然難易度は上がります。そして受験料3万5000円の支払いが必要で、合格後、もし他大学を受験するのであれば、入学金に相当する25万円(返還不可)を支払って入学の権利を得ておかなければならないことなど、金銭的な負担が大きいという問題があります。
受験生にとっては選択肢が増えたように見えることも、必ずしも良いことばかりではありません。希望の進路に近づけられるよう、メリットとデメリット、有利不利を比較検討して受験する大学を選んでください。

参考文献:東洋大学 2025年度 学校推薦型選抜 学校推薦入試基礎学力テスト型 入学試験要項
https://www.mext.go.jp/content/20241120-mxt_daigakuc02-000038880_1.pdf

松本肇(まつもと・はじめ)
教育ジャーナリスト

専門分野は大学改革支援・学位授与機構を活用した学位取得方法、通信制大学・通信制高校・高卒認定試験・専門学校など。著書「短大・専門学校卒ナースが簡単に看護大学卒」等。
いわゆる「学歴フィルター」と呼ばれる価値観よりも、大学で得られる「アカデミックスキル」という数値化しにくい教育の有無に関心がある。
日本テレビ「DayDay.」、フジテレビ「めざまし8」、「ホンマでっか!?TV」、ABEMA「アベマプライム」などでゲストコメンテーターを務める。