学費ナビ

中教審で再び「入試改革」議論へ

問われる勉強の姿勢

中教審で再び「入試改革」議論へ

問われる勉強の姿勢

少しでもいい点を取ろうと暗記にいそしむような受験勉強に、今度こそ見直しが迫られるかもしれません。中央教育審議会(中教審、文部科学相の諮問機関)で、大学入試改革が再び議論される可能性が高まってきたからです。背景には、小中高校の授業の指針となる学習指導要領の改訂と、本格的な大学の再編・統合があります。

機能不全手前に 10年前の「高大接続改革」

大学入学共通テストは、知識問題が中心だったとされる大学入試センター試験を衣替えし、思考力等を問うことに力点を置いて創設されました。さらに、各大学の個別試験では「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」まで加味して合否を反映することになっています。

このような大学入試改革は、2012~14年に中教審で審議された「高大接続改革」に基づいています。元々は大学教育改革に端を発したもので、学生を送り出す側の高校にも教育を変えてもらう必要があり、その間にある大学入試もセットで改革しよう……という発想で進められました。

それから約10年がたちました。大学の数が増える一方、入学してくる18歳の人口は減るばかりです。一部の難関大学を除いて、厳しい入試を課すことで学生の学力や学習意欲を一定に保つことが、ますますできなくなっているのです。

注)我が国の「知の総和」向上の未来像 ~高等教育システムの再構築~ (答申)から引用

従来はバラバラに専門的議論⇒新会長のもとで「横串」

折しも中教審は、3月で任期2年の期替わりを迎えました。同17日の総会で会長に選ばれた橋本雅博・住友生命保険会長は、就任あいさつで「各分科会・部会の審議はかなり専門的になるが、総会で横串を刺し、接続や連携にも留意したい」との姿勢を表明。多くの委員から賛同を得ました。

中教審の分科会は、小中高校などの教育を話し合う「初等中等教育分科会」、大学・短大などの教育を扱う「大学分科会」、社会教育を含めた「生涯学習分科会」の三つが常設され、各分科会の下にさまざまな部会や委員会などが置かれています。これらは通常、別々に審議を進めた上で総会に報告し、了承されたものが正式な答申になります。分科会同士でも審議状況を報告し合いますが、あくまで参考程度です。

初中分科会では、学習指導要領をどう改訂するかの審議が本格的に始まったところです。一方、大学分科会では2月の答申を受けて、これから本格化することが避けられない大学の再編・統合時代を見据え、学びの質を高めるための教育内容・方法の改善などを検討するのが、今期の課題です。

注)初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問のポイント:概要版)から引用

注)我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築~(答申)関係データ集から引用

AIに使い捨てられない能力を獲得するために

今、どのような教育が求められているのでしょうか。生成人工知能(AI)の飛躍的発展や国際紛争の複雑化にみられる通り、国内外はますます不確実性を増しています。社会で活躍するための力も、変わってきています。答えのない問いに、一応の解答をみんなで考えだし、解決に向けて行動することや、そもそも問い自体を見つけ出すことが求められます。いつまでも「正答」を素早く出すような勉強の仕方をしていては、AIを使いこなすどころか、AIに使い捨てられるだけになってしまいます。

とりわけ危機感を持っているのが、社会に直結する大学です。18歳人口はますます減少し、将来的に地方国立大学ですら今のままの存続が危ぶまれています。都市部でも、再編・統合で大学の数を減らしたところで「大学全入時代」の流れを止めることはできません。

日本全体で人口減少が始まっている時に、一人一人の能力を上げなければ、社会を維持することさえできない――。そんな危機感を持って教育を変える議論が、中教審で行われる機運が出始めています。その際に改革の「トリガー(引き金)になる」(橋本会長)のが、大学入試なのです。

渡辺敦司(わたなべ・あつし)
教育ジャーナリスト

1964年北海道出身、横浜国立大学教育学部卒。教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て98年よりフリー。主著に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社、2022年10月)。